「今日もパスワードリセットの対応で、午前が終わった——」。
20〜50名規模で総務や経理を兼ねてIT担当も任されている方なら、他人事ではないはず。Wi-Fi、複合機、業務ソフト——同じ質問が週に何度も飛んできて、本来の仕事に手をつけられないまま夕方になる。社内に相談相手はおらず、代行の月額を経営者に通すのも気が重い。
そんな「ひとり情シス」の方に向けて、代行を外注する前に手元のWorkspaceやM365で社内問合せを”内製で”減らす3週間の手順をまとめます。
この記事を書いた理由——代行を外注する前に試したいこと
ひとり情シス向けの情報を探すと、外部の代行業者の広告ばかりが目に入ります。月10〜40万円でIT業務を丸ごと引き受けてくれる代行サービスを使うこと自体は、選択肢としてありです。
ただ、その月額を経営者に通す前に、手元でできることが残っています。WorkspaceもM365もここ1年で生成AI機能が拡張され、契約中の法人ライセンスに社内問合せの自動応答機能が含まれるケースが増えました。まず3週間だけ試して、足りなければ外部の代行業者に頼む——そのほうが経営者への説明も通ります。
問合せで1日が溶ける構造——人手不足44.1%・重複問合せ72.3%の現実
なぜ本来業務に手が回らないのか。数字で見てみます。
バッファロー社の2024年9月調査では、人手不足を実感する中小企業は44.1%。社内で新たにIT人材を雇えない現実があり、その受け皿として外部の代行業者の利用が広がっています。一方で「頼みたいが金額が読めない」と板挟みになる現場も増えてきました。
問合せ側の数字はもっと生々しい。ソニービズネットワークスの2025年10月調査では、週1回以上同じ問合せを受ける担当者が72.3%。情シス業務時間の3分の1がヘルプデスクに溶けているという別調査もあります。では、その時間は何に消えているのでしょうか。
問合せの中身は、業種を問わず似ています。代表的なのは次のような質問です。
- パスワードリセット、Wi-Fi接続、複合機の使い方
- 業務ソフトの操作(製造業なら生産管理ソフト、介護事業所なら介護記録ソフト、士業事務所なら会計ソフト)
- 電帳法やインボイス対応で「このPDFはどこに保存?」
紙の請求書を画像認識で文字データ化する技術(OCR)を入れても、最終判断は結局人に戻ります。業種は違っても、社内の正解を一人が抱える構造は同じです。
20〜50名規模で1日20件・1件10分なら、問合せだけで週20時間・月80時間。本来の仕事に手をつけられないまま夕方が来る理由は、ここにあります。
社内ナレッジを返す3つの選択肢——NotebookLM/Copilot Studio/標準機能
時間の流出を止める現実的な選び方は、3つあります。
1つ目はGoogle NotebookLM Plus。社内規程をアップロードして引用付きで回答するAIで、AIが外部データを参照して引用付きで回答する仕組み(RAG)の代表例。「規程の何ページから引いたか」を必ず添えます。Workspace Business Standard(月1,600円/ユーザー、年契約・税抜)に同梱。
2つ目はMicrosoft Copilot Studio。SharePointやOneDriveを知識源にノーコードで数時間あればFAQボットが立ち上がり、問合せのチケット化や担当者振り分けまで設計できます。問合せが入った瞬間から、業務の流れにそのまま乗せられる仕様です。
料金はM365 Copilot Business(月3,148円/ユーザー、300名以下限定・税抜)に同梱。2026年6月30日までは初年度月4,572円のキャンペーン価格が使えます(Microsoft 365 Copilot プランと価格、本記事は2026年4月24日時点)。
3つ目は、Google SitesやSharePointの標準機能で作る固定のFAQページ。これはAIではなく、すでに契約しているWorkspace/M365の中に最初から含まれている、社内向けの手順書置き場です。問合せが週10件以下で繰り返しが少ない組織なら、ここから始めるだけでも十分回ります。
| 選択肢 | 同梱料金帯 | ソース上限 | 向いている組織 |
|---|---|---|---|
| NotebookLM Plus | Workspace Business Standard 月1,600円〜 | 1ノート300ソース/500クエリ日 | Workspace利用中、規程引用を重視 |
| Copilot Studio | M365 Copilot Business 月3,148円〜 | 知識源URL指定 | M365利用中、業務の流れに組み込みたい |
| 標準機能FAQ(AIなし) | 既存Workspace/M365ライセンスに同梱、追加費用なし | 制限なし | 問合せ週10件以下の小組織 |
性格の違いを一言で言えば、NotebookLMは「根拠を見せて答える」タイプ、Copilot Studioは「答えてから次の作業まで繋ぐ」タイプ。月額課金のクラウド型ソフトウェア(SaaS)としての設計思想が少しずつ違います。
ある士業事務所の所長はこう話します。
「うちはGoogleで揃えてるから、NotebookLMで規程を引かせるのが一番すんなり来る。Copilotを入れるためにグループウェアを乗り換える話じゃないと分かって安心しました」
判断軸はシンプル。すでに使っているグループウェアに合わせる——これが失敗しにくい入口です。Workspaceを使っている組織が、この機能のためにM365へ乗り換える必要はありません。Copilot Studioは将来、社内の業務システム(会計ソフトや販売管理など)と直接つなげる拡張機能が広がる予定で、すでにM365を使っている組織だけ、半年〜1年後の発展性として頭の隅に置いておけば十分です。
注意点を1つ。無料版AIに社内機密を投げないこと。法人版は契約レベルで学習利用が禁止されており、ここが分かれ道です。Workspaceの全体像はGoogle Workspaceとは?中小企業向けに基礎から解説【2026年版】も参考にしてください。
3週間の内製の段取り——Week 1 棚卸/Week 2 投入/Week 3 検証
ここから記事の中心です。3週間を、週ごとに分けて進めます。
Week 1:困りごとの書き出し
最初の週はツールに触りません。過去3ヶ月の問合せをSlack・Teams・メール・口頭メモから集めてExcelに並べ、頻度順の上位10件を選びます。ここで全体の60〜70%がカバーされます。
中身はだいたい「社内規程の手続き」と「業務ソフトの使い方」の2種類。この10件をAIに任せると経営者に一行メールで共有しておけば、後でつまずきません。
Week 2:社内資料の読み込みと、回答の型決め
社内規程やマニュアルを読み込ませます。NotebookLMはPDFをドラッグ&ドロップ、Copilot StudioはSharePointフォルダのURLを指定するだけ。情シス1人・数時間で最初の形が立ち上がります。
勝負どころは回答を安定させる「型」決め。下のひな型はGemini/Copilotどちらでも使えます。
社内規程に基づいて、根拠となる条文番号を必ず引用して、
中学生でもわかる言葉で回答してください。
該当条文が見つからない場合は「該当規程なし」と明示してください。
用途別のバリエーションも用意できます。
- パスワードリセット用:「IT利用規程フォルダのみ参照、10ステップ以内、失敗時の連絡先を末尾に」
- Wi-Fi接続用:「ネットワーク利用規程.pdfのみ参照、該当条文を引用」
- 業務ソフト使い方用:「業務マニュアルフォルダのみ参照、操作を3ステップ、よくある失敗例を1つ」
ひな型作成と初期テストで合計10〜20時間。業務の合間でも1週間で収まります。
Week 3:10人で試して、おかしな答えを直す
情シス以外から10名選んで試しに使ってもらいます。総務・経理・現場主任など、毎日違う角度で質問してきそうな人を混ぜるのがコツです。
2〜3日で50〜100問を投げてもらい、おかしな答えを抽出。足りないマニュアルを追加するか、見せたくないフォルダを参照対象から外すか——この2択でほとんどの誤答は直せます。
一度で100点を目指さず、80点で展開する。本格導入前に効果を試す小規模検証(PoC)で完璧を求めると、ここで前に進めなくなります。
中堅企業の現場主任は試用後にこう言いました。
「100点じゃないけど、80点でも、同じ質問に答え続けるよりマシ。残り20点を私が直しに行く形なら、全然ありです」
この感覚を社内で共有できれば、3週間の試用は成功です。実例はGoogle Workspaceで変わる中小企業の働き方を参考にしてください。
よくある失敗3パターンと回避策——ツール選定先行/全社一斉/検証時の情報漏れ
同じゴールを狙った会社が、どこで転ぶか。3つに絞って見ておきます。
失敗1:課題を決めずに、先にAIを契約してしまう
「とりあえず話題のAIを入れてみよう」で進めると、誰も使わず終わります。ネオスとひとり情シス協会の中小企業AI活用調査では、AIへの関心65%に対し実際の活用は17%。「興味はあるが社内で動かせていない」状態が6割超に広がります。
回避策は、最初の週の「困りごと書き出し」を先に終わらせること。AIで解ける質問だけを対象にする順番に戻すだけで、契約後の沈黙は避けられます。
契約半年後の経営者の振り返り。
「何のために契約したか曖昧なまま入れてしまった。月3万でも、誰も使わない3万は痛い」
失敗2:全社員にいきなり配布してしまう
ツールは入れたが現場が使わず放置される、というパターンです。
回避策は、まず10人で試すこと。一気に配らず、毎日問合せを浴びている部署から順に渡します。10人が「これ便利」と言い始めれば自然に動き出しますが、10人が首をかしげる段階で全社配布すると信頼回復に半年は溶けます。
失敗3:プロンプトを試す段階で、社内資料を無料AIに貼ってしまう
Week 2でひな型を作るとき、ChatGPTの無料版や個人のGeminiに「この規程をどう要約する?」と試してみる——よくある光景です。無料版は入力データが学習に使われる規約が多く、検証のつもりで貼った社内情報が外に出る可能性があります。情シス担当は善意で動いているので、本人を責めても始まりません。
守り方は3つ。プロンプト検証も含めてAIの利用は法人版(Workspace/M365)に揃える、重要な書類には機密ラベルを付ける、AIの使い方ルールを1ページにして全社員に配る。この3点で創設段階の事故は大きく減らせます。機密情報が外部に漏れないようにするセキュリティ機能(DLP)は、会社で使うプランの中位以上に標準で入っており、設定は1時間で済みます。
3つの失敗は結局「課題を決めずに始めた」か「安全設計を後回しにした」に集約されます。この2つを押さえるだけで失敗率は大きく下がります。
費用対効果と経営者への説明材料——月60時間削減の試算
稟議で必要なのは「期間」「費用」「削減時間」の3点。順に組み立てます。
まず現状の問合せ時間を、ざっくり週20時間で見積もります。1日10件×10分で計算すると、これが週20時間。1ヶ月にすると80時間が問合せに消えている計算です。
AIに任せた後は、週5時間まで圧縮できる想定。同じ質問の繰り返しを自動応答に切り出せれば、月20時間まで縮みます。コニカミノルタの公開事例では自動応答率60%を達成しており、中小規模に縮小しても近い水準は届く範囲です。
差し引きの削減量は、月60時間。これが経営者への稟議で出す数字の核になります。
人件費に置き換えると、厚労省令和6年賃金構造基本統計調査を根拠に情報通信業の中堅技術職で時給3,000円と仮定すれば、月60時間×3,000円=月18万円、年216万円相当の機会損失が取り戻せます。
ライセンス費用は以下のとおり(税抜・年契約、Copilot Businessは2026年6月30日までのキャンペーン価格)。
| 規模 | Workspace + NotebookLM Plus | M365 + Copilot Business |
|---|---|---|
| 20名 | 月3.2万(NotebookLM Plus同梱) | 月9.1万(月4,572円×20) |
| 50名 | 月8万 | 月22.9万 |
| 100名 | 月16万 | 月45.7万 |
外部委託の月10〜40万円と比べると、内製20名月3.2万は桁が一つ小さく、50名規模でも3ヶ月以内に投資回収の目安が立ちます。
業種ごとの納まり方も同じ。生産管理ソフト・介護記録ソフト・会計ソフトはそのままに、社内ナレッジの層だけを上に乗せるのが現実的です。
目標達成度を測る中間指標(KPI)は、問合せ件数・削減時間・自動応答率の3つを月次計測するのが手堅い形。まず社内規程の自動回答から入り、半年後に会計ソフトや販売管理ソフトとAIを直結させる拡張へ進む——この順番が中小企業で最も失敗しにくいのではないでしょうか(M365を使っている組織のみ該当)。
比較事例は士業×Workspace/M365比較【2026年版】も参考になります。
次の一歩とよくある質問
よく出る質問を4つ。
Q1. NotebookLMとCopilot Studio、どちらが良いですか?
使っているグループウェアに合わせるのが失敗しにくい判断です。Workspace利用はNotebookLM Plus、M365利用はCopilot Studio。どちらも未導入なら、まず無料の標準機能FAQで「困りごと書き出し」から始めます。
Q2. セキュリティは大丈夫ですか?
法人版WorkspaceとM365は、契約でデータの学習利用が禁じられています。一度のログインで複数サービスを使える仕組み(SSO)と、パスワードとスマホ認証を組み合わせる本人確認(MFA)も標準機能。設計時に有効化しておくのが基本です。
Q3. 既存の業務ソフトと連携できますか?
現時点では社内規程やマニュアルの自動回答が中心。会計ソフト・介護記録ソフト・生産管理ソフトとの直接連携は今後段階的に広がる領域で、まず規程系から着手するのが実用的です。
Q4. 無料プランで始められますか?
NotebookLMの無料版は入力データが学習に使われる規約のため、社内機密では使わないほうが安全。Workspace Business Standard(月1,600円/ユーザー、年契約・税抜)以上の法人版が実質条件です。
無料相談のご案内
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本記事は公開日時点(2026年4月24日)の情報です。最新情報は各省庁の一次出典および各ツールの公式ページをご確認ください。ライセンス料金・機能は改定される場合があります。個別の判断は税理士・社労士等の専門家にご相談ください。
参考・出典
- 株式会社バッファロー「情シス業務の外部委託に関する実態調査」2024年9月18日発表:https://www.buffalo.jp/press/detail/20240918-02.html
- 一般社団法人ひとり情シス協会「真説 ひとり情シスの傾向と対策 2024年度版」:https://promit.gr.jp/activity/media/trend_2024/
- ネオス株式会社×一般社団法人ひとり情シス協会「中小企業AI活用調査」:https://news.neoscorp.jp/news-officebot-itsupport-survey/
- ソニービズネットワークス株式会社「情シスの社内問い合わせ対応に関する調査」2025年10月15日発表:https://sonybn.co.jp/news/2025/1015/
- freee「SaaS利用実態調査」2024年7月(マイナビニュース経由):https://news.mynavi.jp/techplus/article/20240718-2988078/
- Google Workspace 料金プラン:https://workspace.google.co.jp/pricing?hl=ja
- NotebookLM Plus へのアップグレード(Google公式サポート):https://support.google.com/notebooklm/answer/15678219?hl=ja
- Microsoft 365 Copilot プランと価格:https://www.microsoft.com/ja-jp/microsoft-365-copilot/pricing
- Copilot Studio ライセンス(Microsoft Learn):https://learn.microsoft.com/ja-jp/microsoft-copilot-studio/billing-licensing
- 厚生労働省「令和6年賃金構造基本統計調査 結果の概況」:https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2024/index.html
- 国税庁「電子帳簿保存法の内容が改正されました」令和5年度改正版PDF:https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/pdf/0023003-082.pdf
- 国税庁「インボイス制度について」:https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/invoice_about.htm


